快晴の富士山頂に立ち、富士五湖方面を眺めると、河口湖の北方に緑におおわれた御坂山地が連なっている。三つ峠山(1785㍍)、御坂山(1596㍍)、黒岳(1793㍍)などだ。富士山の好展望地として知られている。山地の中腹には、茶店「天下茶屋」がある。文豪・太宰治が逗留し、名作「富嶽百景」を生み出した。「富士には、月見草がよく似合ふ」の名言はあまりにも有名だ。
茶店「天下茶屋」(左側)からの富士山。太宰治も見た風景だろうか。
2025年5月20日、「まいたび(毎日新聞旅行)」の初心者向け登山教室「安心安全富士登山」の参加者23人が天下茶屋付近の登山口にたたずんでいた。3月の弘法山(235㍍、神奈川県秦野市)から登り始め、山の高度を月ごとに上げて夏には富士山登頂を目指す。今回のステップ4では、御坂山地の最高峰・黒岳を目指す。
午前10時半過ぎ、渡辺四季穂・登山ガイドが「出発しましょう」と声をかけた。登山道はいきなりの急斜面から始まった。「ゆっくり登ります」。木の階段は傾いたり落ち葉で埋まっていたりして歩きづらい。「小またでゆっくり」「落ち葉の下に石が隠れていますよ」。注意喚起が続いた。 リンドウの花が咲いていた
ほどなくして稜線上の御坂峠に到着した。深い森の中だ。「ブナの林ですね。明るい森です」。吹く風もさわやかだ。ツツピー、ツツピーとシジュウカラの鳴き声が広がっていた。アップダウンを繰り返し、御坂山を経て旧御坂峠には午後1過ぎに到着した。 トウゴクミツバツツジの咲く登山道を歩く
一休みした後は黒岳に向かう。樹林帯の中に空堀のような窪地が続いていた。ここにはかつて戦国大名・北条氏が築いた御坂城があったという。武田氏との戦の最前線だったのだろうか。いくつかの岩場を経て、午後2時17分、黒岳に到着した。「やっと着いた」「長かった」と喚声があがった。 黒岳山頂
山頂から5分ほど下ると、富士山と河口湖が見渡せる展望台があった。スマートフォンを取り出した参加者たちは記念撮影に興じた。
黒岳展望台からの富士山。手前は河口湖
石井啓太ガイド率いる第2班も午後2時37分に山頂に到達した。そして、同59分には下りはじめた。岩場の通過時には、石井ガイドは「丁寧に」「怖かったら、しゃがんじゃっていいですよ」。急な下りでは「間隔を空けて。前の人にプレッシャーをかけないで」と伝えた。ロープが設置されている場所では、「ロープに頼るのではなく、軽く触るだけ」とアドバイスをした。
シャクナゲも
午後5時過ぎ、バスの待つ駐車場に到着した。女性参加者は「富士山の山頂は雪で真っ白。夏にはあそこに立ちたい」と意欲を見せてくれた。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日ハイキングクラブ」前会長