添乗員ツアーレポート ◆インカトレイルトレッキング添乗記




 今やペルーの代名詞ともいうべき、世界遺産の中でも屈指の人気を誇るペルーのマチュピチュ遺跡。古代インカの人々が作り上げたインカトレイルの一部を歩いて、マチュピチュ遺跡にゴールするトレッキングがインカトレイルトレッキングです。9月にこのトレイルを歩いてきました。 マチュピチュ遺跡はもちろん、周辺に点在する数々のインカ遺跡を目にすると、インカの人々の技術の高さとその思想に思わず言葉を失ってしまいます。トレッキングをして最後にマチュピチュへたどり着く行程は、クスコから始まる物語のような雰囲気のツアーです。
 リマからクスコに降り立つと、そのまったく異なる町の雰囲気に驚きを感じます。高い建物はなく、周囲の赤茶けた山の色に合わせるかのような赤煉瓦の色に統一された町がクスコです。現代の自動車が通ることなど想定されるはずもなく、 そのまま残る細い路地はクスコのもうひとつの名物ともいえます。そんな細い路地を車が走る光景はちょっと不自然で、馬車や脚絆をつけたような人が通るほうがずっとこの街には似合うような気がします。
 このクスコからインカの物語は始まります。トレッキングを始める前に、クスコの郊外にインカ遺跡が散らばる「聖なる谷」を訪れます。聖なる谷には石の技術の高さを証明する遺跡が数多くあり、現代の技術をもってしてもかなり難しいだろうと思われるその石組技術は芸術的とさえ思えます。 さらにこの石組は表から見ているだけでもその技術に驚きなのですが、遺跡の中には外から見えない内側の石の接合面までも複雑に削られて接合しているものもあるので、この驚きをどう表現していいのかもう言葉にならないくらいです。たいした道具もない時代によくもこんなことができたものだと驚きの連続です。

オリャンタイタンボ

ピサック

サクサイワマン

 そんないくつかの代表的な遺跡を見学した翌日、早朝にクスコを出発して途中オリャンタイタンボの町で休憩をとり、さらにトレッキングのスタート地点KM82まで行きます。 ここで厳密な手続きを済ませ、ポーターたちと合流してからようやく出発です。まだまだ標高も低いせいか、かなりの暑さを感じました。腕から外した腕時計の気温計では30℃と表示されています。 予想以上の暑さ。思わず、最初の売店でインコーラを買ってしまいました。インカコーラというのはあまり聞きなれない飲み物だと思いますが、ペルーでは人気の高い炭酸飲料で、コーラというのは名ばかりで、 味も外見も一般的なコーラとは似ても似つかず、むしろオロナミンCに似ています。色は、ちょうど道の脇で見かけた鮮やかなサボテンの花の色に似ていました。
 川沿いの道を徐々に高度を上げながら谷の奥深くへ進んでいきます。途中でランチタイムです。 スタッフたちが先にダイニングテントを立ててお昼の準備をしていてくれます。アフリカでも、ネパールでもこういう仕事をしてくれるスタッフにはいつも頭が下がります。 短い時間と不便な環境の中でも手際よく実に一生懸命働いてくれます。
 お昼の後、集落のような場所にあるチェックポイントを通過して、ようやくキャンプ地のワイリャバンバに到着です。インカトレッキングではキャンプ地にはトイレはないので、スタッフがトイレテントを立ててくれます。テントも大きいので2名でも十分なスペースがあります。 世界遺産ということで環境に対する配慮は厳しく、簡易トイレをトイレテントの中に設置します。ですから撤収してしまえば後にはなにも残りません。私たち日本人には絶対できない仕事です。 彼らに対する感謝の気持ちが募るばかりです。コックの作る温かくおいしい夕食を楽しんで就寝です。


 2日目はいよいよこのトレッキング中で最高地点となる4200mのワルミワニュースカ峠を越えます。しばらくの間、樹林帯の中の登りが続きます。昨日と同様に途中でランチがあります。 スタッフが先に行って見晴らしのよい場所を確保していてくれました。ワインビネガーのきいたサラダはさっぱりとしていてかなり好評でした。 お昼の後も登りが続き、やがて景色がひらけるとようやく峠が見えます。右下の谷ではリャマが数頭のんびり草を食べている姿が見えました。 後ろを振り返っては、歩いてきた谷を眺め、前を向いては峠までの距離を感じながら登っていきます。峠に到着すると、歩いてきた谷とこれから下る道の両方を目にすることができます。 でも先ほどまで出ていた青空はなくなり曇り気味になってきたため、青空をいれての写真とはいきません。おまけに風もあるせいか、少々肌寒い感じです。峠からは雨が降らないこと祈りながら、キャンプ地へ下ってきました。
 下る途中では、黄色いイエローレディースリッパなどいくつかのランや、野草が見られたおかげで下りも楽しめたような気がします。
 キャンプ地に到着してまもなく、雷鳴が聞こえ、雨が降り始めましたが、すでにテントも設営してあったのでかろうじて雷雨に合わずに済んだのでラッキーでした。


 3日目は遺跡が多い日です。キャンプ地から北の方角にルンクラカイ遺跡が見えています。 雪をかぶった山も朝日できれいに見えているので天気はとりあえず大丈夫そうでした。朝方に見た縞模様の雲海が印象的なキャンプ地を後にして、石段の道を登りルンクラカイ遺跡を過ぎると、ひと踏ん張りで2つ目の峠に到着です。気温も25℃と非常に快適です。むしろ歩いていると少し暑いくらいです。他のトレッカーたちもここでしばし休憩です。 この日は多くの花を見ることができたのですが、その中でもこの峠で見かけたプイヤという青い不思議な花と赤いしゃくなげのような花が特に印象的でした。
 峠からは次のサヤクマルカ遺跡へ向けて下ります。インカトレイルの途中にはいくつも遺跡があるのですが、敵の侵入などを知らせるための見張り場所のようなポイントが いくつもあるようで、この遺跡もその一つのようです。日本でいえば狼煙をあげて仲間に知らせるそんなイメージでしょうか。この遺跡を見学し、 さらにチャキコチャ遺跡に下ると野生のリャマが人を恐れることもなく道のすぐ脇で草を食べていました。ぬいぐるみのようでなんとも愛らしい動物です。
 ランチポイントへ到着すると気温はさらに上がって30℃。この先はアップダウンが少なくなり、途中道をふさぐ岩をくりぬいたトンネルを通ってトラバース気味に歩いているうちに、雲行きが怪しくなり小雨が降りだしました。 たいした雨ではないので折りたたみ傘でしのぎながらキャンプ地のプユパタマルカへ到着。雨が降ったおかげで、気温は一気に下がり13℃と肌寒くなりました。キャンプ地はひらけた尾根の上にあるので、本来なら見晴らしは抜群なのですが、 雨が降ってからはずっとガスが濃く、時折ガスの切れ間から見える景色に翌日の好展望を期待して食事をとって早めに就寝しました。欧米人のグループではこのキャンプ地からさらに先に進んで(下って)宿泊する行程も多いようですが、 ここにテントを張らないのは非常にもったいないというのを翌朝私たちは実感したのでした。


 4日目の朝はいつもより早く起きて行動です。それは、このキャンプ地から少し登ったところにある展望ポイントから朝日を見るためです。ポイントに着いたのは私たちが最初でした。 氷河をかぶった名峰サルカンタイとウマカンタイがすでに顔を出しているではないですか。日の出前の青白くにぶい光の中で静かに朝日があたるのを待っているかのようです。 そして、とうとう太陽が顔を出し、周囲の山々に光があたり始めると、またたく間に幕があけるようにして山の存在感が増していきます。私たちの周囲に残っていたガスも少しずつきれて、 古代の祭壇も姿を現してくると、それはまるで天空に浮かぶ幻想的な要塞のようにも見えました。古代インカの人々が太陽を神と崇めて崇拝していた気持ちがよくわかるような時間でした。

花の中に小人が住んでいるようなラン

 キャンプ地を後にして長い下りになります。サルカンタイ遺跡、段々畑のようになってインティパタを見ながらランチポイントのウイニャワイナへ。 ここにもウイニャワイナ遺跡という見事な遺跡があります。ここまで来るとマチュピチュ遺跡へのゲートとなるインティプンク、通称「太陽の門」まであと一息です。 太陽の門に到着する少し手前からまた亜雨が降り始めましたが、ランや他の花を楽しめる時間でした。
 古代インカの人々はどんな気持ちでこの門をくぐり、眼下のマチュピチュ遺跡を見たのでしょうか。 遺跡の形や位置それぞれに意味をもたせて緻密に築かれた空中都市マチュピチュは歩いて出会うからこそ、よりその神秘さを感じる歴史とロマンの溢れる旅でした。

マチュピチュとワイナピチュ

ワイナピチュから見るマチュピチュ

 (文と写真/渡辺和彦)2012.9.18~9.29